大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成3年(行ケ)43号 判決

東京都港区虎ノ門1丁目7番12号

原告

沖電気工業株式会社

代表者代表取締役

小杉信光

訴訟代理人弁理士

鈴木敏明

萩原誠

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

小林秀美

飛鳥井春雄

涌井幸一

奥村寿一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が同庁昭和62年審判第5258号事件について、平成2年12月6日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年8月3日、名称を「絶縁物分離形半導体集積回路装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭56-120640号)が、昭和62年1月21日に拒絶査定を受けたので、同年4月9日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第5258号事件として審理したうえ、平成2年12月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成3年2月13日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

別添審決書写し記載のとおりである。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された特開昭53-146571号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法29条1項3号の規定により、特許を受けることができないものと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨、引用例の記載内容及び引用例発明と本願発明との相違点の認定は認める。両者の一致点の認定については、引用例発明のものが、本願発明と等しく、「幾何学模様にレイアウトされた」多数の単結晶島領域を有するとした点を否認し、その余は認める。

審決は、上記のとおり、本願発明と引用例発明との一致点でないところを一致点と誤って認定し(取消事由1)、相違点についての判断を誤り(取消事由2)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取消を免れない。

1  取消事由1

本願発明の対象である絶縁物分離形半導体集積回路装置においては、従来から一般に、シリコンチップ全体としての高集積化を図るために、個々の構成素子である単結晶シリコン島領域の面積をできるだけ小さく設計することが行われている。そのため、各単結晶島領域の面積及び表面形状が必ずしも規則的にならず、したがって、これら構成素子を四角形のシリコンチップ(平坦な半導体ウエハ)にレイアウトする場合、不必要に広い幅を有する間隔部分(アイソレーション領域)が形成されることがある。このような技術的背景において、本願発明者らは、本願明細書に記載のように「不必要に幅の広いアイソレーシヨン領域を有する場合は、マスク材に形成する開口部の幅が広くなり、シリコン基板に深い溝が形成され、ポリシリコン層に空洞が発生し、この空洞の存在によりシリコン基板に破損や汚染が生じるという問題があつた。」(甲第2号証明細書6頁14~19行)という知見を得た。

そこで、本願発明は、シリコン基板に破損や汚染が生じることのない絶縁物分離形半導体集積回路装置を提供することを目的とし、集積回路装置を構成する素子である幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域、すなわち高集積化のために巧妙にレイアウトされた面積及び表面形状の異なる多数の単結晶シリコン島領域と、これら島領域間に存在する絶縁物分離層とを含み、前記絶縁物分離層の前記主表面露出パターンを、当該主表面のほぼ全域にわたって細長い帯状とするためにのみ前記島領域間の比較的大きな間隔部分内に独立したダミー島領域を形成するか若しくは隣接する島領域の一部を拡張して前記間隔部分を島領域で埋めた構成としたのである。

すなわち、本願発明の要旨とする「幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域」とは、シリコンチップ全体として高集積化を図るために、構成素子である単結晶シリコン島領域一個一個の面積をできるだけ小さくするよう設計されたため、単結晶シリコン島領域の面積及び表面形状が異なるものとなった結果、単結晶シリコン島領域間に不必要に広い幅の、すなわち、比較的大きな間隔部分を有するようにレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域を意味する。

これに対し、引用例には、碁盤目模様に形成された絶縁分離帯2とこの絶縁分離帯2によって分離されX方向又はY方向に同一幅を有する長方形のみで構成された多数の絶縁分離島が開示されているにすぎず(甲第4号証2頁右上欄16~18行、図面第2図)、引用例発明にあっては、本願発明の「単結晶シリコン島」に相当する絶縁分離島は規則正しく配置されており、本願発明でいうような「幾何学模様にレイアウトされた」多数の単結晶シリコン島領域は存在しない。引用例発明においては、シリコンチップ全体としての高集積化を考慮していないし、構成素子(絶縁分離島)一個一個の面積をできるだけ小さく設計することは行われておらず、その結果、単結晶シリコン島領域間に不必要に広い幅、すなわち、比較的大きな間隔部分は形成されないのである。本願発明は、このような絶縁分離帯が単に碁盤目模様に設けられた半導体集積回路装置を含まない。

審決は、本願発明の要旨を誤って解釈したか引用例の記載を誤認した結果、以上の相違点を看過し、誤って一致点でない点を一致点であると認定した。

2  取消事由2

上記のとおり、単結晶シリコン島領域が不規則な形状に配置され、島領域間に比較的大きな間隔部分(アイソレーション領域)が形成される場合、マスク材に形成する開口部の幅が広くなり、シリコン基板に破損や汚染が生じる。そこで、本願発明では、多数の単結晶シリコン島領域の比較的大きな間隔部分に新たに独立したダミー島領域を形成するか、もしくは隣接する島領域の一部を拡張することにより、前記間隔部分を島領域で埋めて、絶縁物分離層の主表面露出パターンを細長く帯状にして主表面を保護することとした。

本願発明においては、この新たに埋めこんだ島領域を「ダミー島領域」と表現した。すなわち、ダミー島領域とは、幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域間の比較的大きな間隔部分内に埋めることにより絶縁物分離層の主表面露出パターンを細長く帯状とするために形成された領域であり、本願明細書では、その実施例1の説明において、それが、構成素子である単結晶シリコン島領域間のアイソレーション領域である不必要に広い幅を耐圧によって決まる最低必要な細長い幅とするために設けた領域である旨を明らかにし(甲第2号証明細書7頁6行~8頁1行)、かつ、「基板表面に現われるアイソレーシヨン領域の幅を最低必要な幅を基準としてほぼ一定とするために、回路動作に本質的に寄与しない付加的な単結晶シリコン島領域を新たに設けた」(甲第2号証明細書11頁9~13行)と記載している。このことから明らかなように、本願発明の「ダミー島領域」とは、「幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域の比較的大きな間隔部分内に埋めることにより絶縁物分離層の主表面露出パターンを細長く帯状とするためにのみ形成され、半導体集積回路装置の等価回路図には一切表現されない製造プロセス上にのみ必要な領域」を意味する。

これに対し、引用例発明の「外部電極を設ける絶縁分離島」(引用例第2図の絶縁分離島9a)は、回路素子を構成する拡散領域を有していないが、それ自体、基板シリコンを仲介して、アルミニウム配線と外部電極とを電気的に接続する電流経路であり、半導体集積回路装置として必要不可欠なものである。また、形状が規則的に形成された絶縁分離島9と同9aの間には、本願発明の特許請求の範囲に記載された「比較的大きな間隔部分」は存在しえない。したがって、引用例には本願発明のような意味での「ダミー島領域」はない。

それにもかかわらず、「引用例記載の外部電極を設ける絶縁分離島が、本願発明でいう独立したダミー島領域と格別構成上の差異を有するとみることができない」と判断した審決は、本願発明の要旨を誤って解釈した結果、両者の相違点を正しく評価せず、誤った結論に至ったものというべきである。

第4  被告の主張の要点

審決の認定判断は相当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願発明の要旨に示された「幾何学模様にレイアウトされた」の意味を、原告主張のように、「個々の構成素子である単結晶シリコン島領域が、その面積及び表面形状が異なるために不規則な形状でレイアウトされた」と解すべきことは、本願明細書に記載がない。幾何学模様とは、「方形・三角形・菱形・多角形・円形などを組み合わせた模様」(乙第1号証)を意味し、文言自体明確であり、その意味は文言どおりのものと解すべきであるから、原告が主張するような内容に限定することはできない。

そして、引用例発明においては、絶縁分離帯により多数の絶縁分離島が矩形状に形成されており、これは「方形を組み合わせた模様」であるから、幾何学模様の範疇に含まれることは明らかである。したがって、引用例発明の半導体装置も「幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域」を有しているものといわなければならない。

原告は、本願発明において、多数の単結晶シリコン島領域をどのようにレイアウトしていったかの設計手順を説明するが、設計手順は、物の発明である本願発明の「幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域」の構成を特定する要件とはならない。

2  同2について

本願発明の特許請求の範囲には、「ダミー島領域を形成するか若しくは隣接する島領域の一部を拡張して前記間隔部分を島領域で埋めることにより、前記絶縁物分離層の前記主表面露出パターンを、当該主表面のほぼ全域に亘つて細長い帯状とした」と記載されているのみであり、ダミー島領域を形成する目的が「細長い帯状にするためにのみ」と限定的に解釈することは、特許請求の範囲には記載されていないし、示唆もない。原告の主張する内容は、製造プロセス上の目的構成効果を主張しているものであり、物の発明である本願発明は、製造プロセスを発明の構成要件とするものではないから、原告の主張内容は、本願発明とは関係がない。

また、「半導体集積回路装置の等価回路図には一切表現されない製造プロセス上にのみ必要な領域」であることについても、本願明細書に記載がない。本願の明細書には、回路動作に「本質的に寄与しない」(甲第2号証明細書11頁12行)と記載されているだけであるから、等価回路図には一切表現されないもの、すなわち電流経路とはならないものとまで限定して解釈することはできない。そして、引用例発明における絶縁分離島9は、回路動作に本質的に寄与する単結晶シリコン島領域であり、絶縁分離島9aは、回路動作に本質的に寄与しない単結晶シリコン島領域であり付加的なものであるから、絶縁分離島9aは、本願発明でいう「比較的大きな間隔部分」に相当する絶縁分離島間の間隔部分に形成されたダミー島領域の役割を奏しているということができ、絶縁分離島9aと本願発明におけるダミー島領域とは、構成上格別の差異を有しているということはできない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、当事者間に争いはない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

引用例に、碁盤目模様に形成された絶縁分離帯2とこの絶縁分離帯2によって分離されX方向又はY方向に同一幅を有する長方形のみで構成された多数の絶縁分離島が開示されていることは当事者間に争いがない。

原告は、本願発明の単結晶シリコン島に相当する引用例のこの絶縁分離島は規則正しく配置されており、本願発明の要旨にいう「幾何学模様にレイアウトされた」ものではないと主張する。

しかし、一般に、「幾何学模様」とは、乙第1号証により認められる「広辞苑」(岩波書店発行・第2版補訂版)に記載されているように、「方形・三角形・菱形・多角形・円形などを組み合わせた模様」と理解されていることは明らかであり、文言自体からその意味は明確であるから、本願発明の要旨を認定するに当たり、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌すべき特段の事情はないものといわなければならない。したがって、本願発明は、その単結晶シリコン島領域が、上記の意味で「幾何学模様にレイアウトされた」ものであれば足り、たとえば、その単結晶シリコン島領域が、「方形・・・などの図形を組み合わせた模様」にレイアウトされたものの場合、その方形の形状・寸法が各個別々のものである必要はなく、同じ形状・寸法の方形を組合せた規則的な形状のものも、「幾何学模様にレイアウトされた」ものとして、本願発明に含まれると解すべきである。

そうである以上、絶縁分離帯により多数の絶縁分離島が矩形状に形成されている引用例発明は、方形を組み合わせた模様にレイアウトされた多数の絶縁分離島領域を有する点で、本願発明の「幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域」の構成を備えているというほかはなく、両者は、この点で異なるところはないと認められる。

したがって、本願発明と引用例発明とが、「幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域」を有する点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

2  同2について

引用例発明の半導体装置においては、審決認定のとおり、「シリコン基板の主表面には、ほぼ全域に亘って細長い帯状の絶縁分離帯により、矩形状の多数の絶縁分離島が形成され、回路素子となる拡散領域を有する絶縁分離島に隣接し、外部電極を設ける絶縁分離島が形成され、しかも、該外部電極を設ける絶縁分離島は回路素子となる拡散領域を有していない」(審決書4頁7~13行)ことは、当事者間に争いがない。

原告は、引用例発明における上記「外部電極を設ける絶縁分離島」は本願発明の「独立したダミー島領域」に該当しないと主張する。

そこで、本願発明の要旨に示された「独立したダミー島領域」の意義について検討すると、甲第2、第3号証により認められる本願明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明を説明するために、図面(第7~第11図)を参照して、その第1の実施例について詳細に説明し、その要約として、「この発明の第1の実施例では、基板表面に現われるアイソレーシヨン領域の幅を最低必要な幅を基準としてほぼ一定とするために、回路動作に本質的に寄与しない付加的な単結晶シリコン島領域を新たに設けた」(甲第2号証明細書11頁9~13行)ことを述べ、次いで、第2の実施例につき、「この発明の第2の実施例では、新たに単結晶シリコン島領域を設けずに、回路動作に寄与する単結晶シリコン島領域や半導体集積回路装置製造上必要な単結晶シリコン島領域の面積を広くすることによつて、アイソレーシヨン領域の幅を最低必要な幅を基準としてほぼ一定とする」(同11頁13~19行)構成のもの(図面第12~第13図)について説明した後、「以上詳述したように、この発明は、島領域間の比較的大きな間隔部分内に独立したダミー島領域を形成するか若しくは隣接する島領域の一部を拡張して前記間隔部分を島領域で埋めることにより、絶縁物分離層のウエハ主表面露出パターンを、当該主表面のほぼ全域に亘つて細長い帯状とした」(甲第3号証2枚目12~18行)と記載されていることが認められる。

この記載と前示本願発明の要旨とによれば、本願発明の「独立したダミー島領域」とは、「半導体ウエハの主表面における絶縁物分離層の前記主表面露出パターンをほぼ全域に亘って細長い帯状とするための単結晶シリコン島領域の一つであって、回路動作に本質的に寄与しない付加的な単結晶シリコン島領域を回路動作に本質的に寄与する単結晶シリコン島領域に対して称したもの」であると理解できる。

この理解を前提に引用例(甲第4号証)を見ると、前示当事者間に争いのない引用例発明の構成のとおり、その図面(第2図)には、シリコン基板の主表面に形成された回路素子となる拡散領域を有する複数の矩形状の絶縁分離島9と隣接して、外部電極を設けた矩形の絶縁分離島9aが図示されており、これら多数の矩形の絶縁分離島により、シリコン基板の表面露出部分がほぼ全域に亘って細長い帯状の絶縁分離帯とされていることが明らかである。すなわち、引用例発明の外部電極を設けた矩形の絶縁分離島9aは、本願発明の「独立したダミー島領域」と同じく、「半導体ウエハの主表面における絶縁物分離層の前記主表面露出パターンをほぼ全域に亘って細長い帯状とするための単結晶シリコン島領域の一つ」に該当すると認められる。

そして、絶縁分離島9aは、回路素子を構成する拡散領域を有していない点で、「回路動作に本質的に寄与する」回路素子を構成する拡散領域を有する単結晶シリコン島領域である絶縁分離島9とは、その構成、機能を異にし、その意味で、「回路動作に本質的に寄与しない付加的な単結晶シリコン島領域」であると認められる。

原告は、引用例発明の絶縁分離島9aは、回路素子を構成する拡散領域を有していないが、それ自体、基板シリコンを仲介して、アルミニウム配線と外部電極とを電気的に接続する電流経路であり、半導体集積回路装置として必要不可欠なものであるのに対し、本願発明のダミー島領域とは、多数の単結晶シリコン島領域の比較的大きな間隔部分内に埋めることにより絶縁物分離層の主表面露出パターンを細長く帯状とするためにのみ形成され、半導体集積回路装置の等価回路図には一切表現されない製造プロセス上にのみ必要な領域をいうのであるから、引用例発明の絶縁分離島9aは本願発明のダミー島領域に該当しない旨を主張する。

しかし、本願発明のダミー島領域が、半導体集積回路装置の等価回路図には一切表現されない製造プロセス上にのみ必要な領域をいうことについては本願明細書には何らの記載はないから、原告の上記主張は採用できず、上記のとおり、引用例発明の絶縁分離島9aは、外部電極を設ける点で電流経路として半導体集積回路装置に必要なものではあるが、回路動作への寄与という点で絶縁分離島9とは異なる構成、機能を有しているのであって、本願発明におけるダミー島領域と構成上格別の差異を有しているということはできない。そして、本願発明の「島領域間の比較的大きな間隔部分」とは、多数の単結晶シリコン島領域の間であってダミー島領域が形成されるところを意味することは明らかであり、前示引用例の図面を見れば、引用例発明の絶縁分離島9aがこの意味での間隔部分内に形成されていることが認められる。

したがって、引用例発明の「外部電極を設ける絶縁分離島が、本願発明でいう『独立したダミー島領域』と格別構成上の差異を有するとみることはできない」とした審決の判断に誤りはなく、原告の主張2は理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも採用できず、その他審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)

昭和62年審判第5258号

審決

東京都港区虎ノ門1丁目7番12号

請求人 沖電気工業株式会社

東京都港区虎ノ門一丁目2番20号 第19森ビル

代理人弁理士 菊池弘

昭和56年特許願第120640号「絶縁物分離形半導体集積回路装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和58年2月8日出願公開、特開昭58-21841)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和56年8月3日の出願であつて、その発明の要旨は、昭和61年10月24日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「平坦な半導体ウエハの主表面に幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶シリコン島領域と、これら島領域間に存在する絶縁物分離層とを含み、前記島領域間の比較的大きな間隔部分内に独立したダミー島領域を形成するか若しくは隣接する島領域の一部を拡張して前記間隔部分を島領域で埋めることにより、前記絶縁物分離層の前記主表面露出パターンを、当該主表面のほぼ全域に亘つて細長い帯状としたことを特徴とする絶縁物分離形半導体集積回路装置。」

一方、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭53-146571号公報(昭和53年12月20日公開。以下、引用刊行物という。)には、シリコン基板のある絶縁分離島に外部電極を設け、この絶縁分離島と、他の絶縁分離島の回路素子となる拡散領域をアルミニウム配線で接続して集積回路素子とした半導体装置が、そして、該半導体装置の詳細図である第2図(a)及び(b)によれば、平坦なシリコン基板の主表面において、絶縁分離帯を矩形状に、かつ細長い帯状に設け、多数の絶縁分離島を形成することが開示されている。

そこで、本願発明と前記引用刊行物に記載された発明とを比較検討すると、本願発明における島領域は前記引用刊行物における絶縁分離島に、また、本願発明における絶縁分離層は前記引用刊行物における絶縁分離帯にそれぞれ対応しているから、本願発明と前記引用刊行物記載の発明とは、平坦な半導体ウエハの主表面に幾何学模様にレイアウトされた多数の単結晶島領域と、これら島領域間に存在する絶縁物分離層とを含み、前記絶縁物分離層の前記主表面露出パターンを、当該主表面のほぼ全域に亘つて細長い帯状とした絶縁物分離形半導体集積回路装置の点で共通であり、本願発明は、前記島領域間の比較的大きな間隔部分内に独立したダミー島領域を形成するか若しくは隣接する島領域の一部を拡張して前記間隔部分を島領域で埋めた構造を有している点で、前記引用刊行物記載の発明と一応相違している。

次に、上記相違する点について検討する。

前記引用刊行物に記載された半導体装置において、シリコン基板の主表面には、ほぼ全域に亘つて細長い帯状の絶縁分離帯により、矩形状の多数の絶縁分離島が形成され、回路素子となる拡散領域を有する絶縁分離島に隣接し、外部電極を設ける絶縁分離島が形成され、しかも、該外部電極を設ける絶縁分離島は回路素子となる拡散領域を有していないから、前記外部電極を設ける絶縁分離島も絶縁分離島間に埋められたダミー分離島の役割を奏しているといえる。

したがつて、前記外都電極を設ける絶縁分離島が、本願発明でいう「独立したダミー島領域」と格別構成上の差異を有するとみることができない。

よつて、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された前記引用刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

なお、原査定の基礎となつた昭和61年7月15日付け拒絶理由通知書では、特許法第29条第2項の規定を適用しているが、同法第29条第1項第3号の規定を適用するのが相当であり、また、原審の手続をみても同条同項同号を適用したのと同様の経過を示していることから、改めて拒絶理由を通知するまでもなく、上記規定によつて本願発明は特許を受けることができないとした。

よって、結論のとおり審決する。

平成2年12月6日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例